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岸田文雄首相が、ウクライナへの電撃訪問を行った。事前公表はせず、外遊先のインドから空路ポーランドへ入り、列車でウクライナの首都キーウに到着した。ロシア軍による虐殺があったキーウ近郊ブチャの教会を訪れ、犠牲者を悼んだ。その後、ゼレンスキー大統領と首脳会談を行った。
戦後日本の首相が領土内で戦闘が続く外国を訪問するのは初めてだ。岸田首相のキーウ訪問は、侵略者ロシアと戦うウクライナへの連帯と支援の継続を伝える上で意義がある。高く評価したい。
岸田首相は会談で、ロシアの侵略を非難し、ウクライナへの日本と先進7カ国(G7)による支援や対露制裁の継続を伝える。
日本以外のG7首脳はキーウを訪問していた。日本は今年の議長国として、5月にG7首脳会議(広島サミット)を開催する。サミット前の訪問は首相がG7によるウクライナへの連帯と強力な支援を主導する上で欠かせなかった。
日本の首相の訪問は、欧米だけではなくアジアの国もウクライナを支えていることを示す意味合いもある。折しも、ウクライナとロシアの和平を唱える中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、侵略の張本人であるプーチン大統領との友好を温めている。日中は対照的な姿を示すことになった。
岸田首相は昨年からキーウ訪問を模索してきたが、安全確保や秘密保持の難しさから実現しなかった。G7首脳としては最後になったが、今回の訪問実現で、日本が諸外国から奇異の目で見られることも避けられた。
訪問は岸田首相が列車でキーウに向かっている間に公表された。一方、多くの国は首脳のキーウ到着後に訪問を明かしてきた。
岸田政権が、与党など関係者へ訪問を通知したり、ポーランドでの列車乗車時の取材があったりした関係上、情報が広がることに留意して列車移動中の公表に踏み切った可能性がある。今回、問題は生じなかったようだが、安全確保と秘密保持の在り方は引き続き検討が必要ではないか。
日本のウクライナ支援は外交上の後押しや資金、人道物資、非殺傷の防衛装備の供与などだ。日本自身が防衛力増強中で、量的限度はあろうが、防衛装備移転の制約の緩和を実現し、侵略者撃退のための殺傷力のある装備の供与も選択肢に入れるのが望ましい。
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2023年3月22日付産経新聞【主張】を転載しています